今回から新たに、「無線システム」に関する講座をスタートします。
ちょっとディープなお話も出てきますが、ローカル5Gを理解するには必須の内容ですので、ぜひ一読ください。
※マルチパスのモニタについて追記しました(2022.6.9)
第一回目からいきなり技術的な深い話となりますが、できるだけ簡単に説明してみたいと思います。
ローカル5Gで初めて無線システムを本格的に使用されるお客様が、最初に遭遇する問題としてマルチパス問題があります。今回のコラムでは、物理現象としての説明と一般的な対策について御紹介したいと思います。
マルチパスとは
マルチパスは、ローカル5Gに限られた話ではなく、無線通信システム全般の現象となります。通常、受信機は、送信機から受信機に向けて送られてきた直接波(赤線)以外にも、壁、床、天井などから反射した反射波(青線)も受信しています。これらが合成された信号が受信信号となります。そして、直接波と反射波の重なり具合により、直接波だけのときに比べて受信電力が大きくなったり、小さくなったりします。この状態をマルチパスといいます。みなさまがお使いの携帯電話でも常にマルチパスは発生しており、無線システム側で技術的な工夫により安定した通信が実現しています。
図1 マルチパスのイメージ
マルチパス環境下での受信電力
2方向から受信した電波の位相が同相だったときは、図2のように電力は足し合わされ、1波のときの電力より受信電力が高くなり、逆に逆相だったときは、図3のように信号が打ち消されてしまいます。 そして何も動かない状況では、各々の反射波は定在波となり、受信電力は一定になります。しかし現実の環境では、人が屋内に居た場合などでは何かしらの変動があり、常に受信電力は変動します。このような現象をフェージングと呼びます。
また、同じ通信路であっても周波数が違う場合には、反射波間の位相差は異なるため、受信電力が高まったり、弱まったりする度合いも異なってきます。そのため、周波数によって図4のようにフェージングの度合いが異なってきます。
図2 同相での合成波
図3 逆相での合成波
図4 フェージングの影響が大きい時
図5 フェージングの影響が小さい時
マルチパス対策
フェージングの影響は通信路によって異なります。そのため、受信するアンテナの位置を変更するとその度合いが変わり、電力が落ち込む周波数も変わります。そこで、異なる位置に設置したアンテナで受信した信号を合成することにより、フェージングによる受信電力の落ち込みを抑える方法があります。これをダイバシチ受信といい、一般的に使用される対策方法です。
例えば受信アンテナ#1、#2があり、それぞれの受信電力周波数特性が図6、7のような場合を考えてみます。二つのアンテナの受信信号を合算することにより、図8のようにフェージングによる落ち込みの度合いを軽減することができます。また、ダイバシチ受信には以下のようないくつかの方法があります。
1.電波の受信環境がいいアンテナを選択する選択式
2.単純な合成
3.合成した受信電力が最大となるように#1,#2の信号を合成する最大比合成
なお、最大比合成は改善効果が大きい一方、処理が複雑なため、回路規模が大きくなったり、プロセッサーの負荷を増加させたりするデメリットもあります。
図6 アンテナ#1の受信電力周波数特性
図7 アンテナ#2の受信電力周波数特性
図8 合成信号の受信電力周波数特性
マルチパスのモニタ(2022.6.9追記)
マルチパス対策を検討するにあたり、まずは特性劣化の要因がマルチパスであるかどうかを確認する必要があります。
スペクトラムアナライザで周波数特性を確認し、受信電力の鋭い落ち込みを確認する方法もありますが直感的にはわかりにくいです。
そこで弊社では、マルチパスをモニター可能な測定器を準備しました。
この測定器はAU-510プラットフォームを活用し、遅延プロファイルをリアルタイムで確認することが可能です。
サンプル画面を以下に示します。
画面上部が遅延プロファイル、下部が受信電力となります。
マルチパス画面の2本のモニタ信号は2本の受信アンテナでモニタされた信号を示しています。
マルチパスが発生しているとこのピークが複数観測されます。
この測定器を用いるとリアルタイムで直感的にマルチパスの発生を確認することができます。
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